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同一労働同一賃金の主な改正内容についてご紹介!

2024.08.21 社労士コラム

昨今の労働環境の変化に伴い、企業は従業員の待遇や給与計算に関する法令遵守に対する意識を一層高める必要があります。
「同一労働同一賃金」の理念は、正規・非正規従業員間の不合理な待遇差を解消するために重要な基盤となっており、具体的な改正内容やガイドラインも提示されています。
本記事では、給与計算にかかわる法令や同一労働同一賃金の主な改正内容についてご紹介します。

給与計算にかかわる法令

給与計算にかかわる法令は、労働基準法をはじめ、所得税法、健康保険法、厚生年金保険法など多岐にわたります。
これらの法令は従業員の労働条件や賃金に直接影響を及ぼすため、企業はこれらを遵守することが求められます。
特に、労働基準法は給与計算の基盤となる重要な法律です。

1: 労働基準法

労働基準法は、労働条件の最低基準を定めており、企業と従業員の双方にとって最も重要な法律です。
この法令において、給与計算に関して特に重要なのが「賃金支払5原則」です。
これに違反すると、企業には罰則が科せられる可能性があります。

賃金支払5原則

1. 通貨払いの原則

給与は原則として現金で支払われなければなりません。
物品やサービスなどの現物支給は認められていません。
ただし、労使協定や労働協約がある場合には例外として通勤定期券などを現物支給することができます。
また、従業員の承諾を得れば、給与の銀行振り込みも可能です。

2. 直接払いの原則

給与は必ず従業員本人に直接支払われる必要があります。
銀行振り込みを行う場合も、本人名義の口座に振り込むことが必要です。

3. 全額払いの原則

給与は全額を支払わなければなりません。
分割払いは認められておらず、貸付金との相殺も禁止されています。
ただし、所得税や住民税、厚生年金や健康保険などの法定控除は給与から差し引くことができます。

また、労使協定や労働協約に基づき、財形貯蓄や組合費などを控除することも可能です。

4. 毎月払いの原則

給与は毎月1回以上支払う必要があります。
年俸制の場合も、1か月に1回以上の支払いになるように分割して支払います。
なお、賞与などの臨時の賃金はこの原則の対象外です。

5. 一定期日払いの原則

給与の支給日は毎月一定の日に定められなければなりません。
これらの原則を遵守することで、従業員の権利を保護し、公正な労働環境を維持することが可能となります。

遅刻・早退・欠勤時の賃金控除の考え方

「ノーワーク・ノーペイ」の原則に基づき、従業員が労務を提供しなかった時間については、企業は賃金を支払う義務がありません。
これは遅刻、早退、欠勤などの不就労時間に対して賃金を控除することが可能であることを意味します。
ただし、これらの賃金控除には適正な手続きと計算方法が必要です。
また、控除と減給の制裁は区別して考える必要があります。

1: 遅刻・早退・欠勤時の賃金控除と「減給の制裁」との違い

・賃金控除
遅刻、早退、欠勤時の賃金控除は、不就労時間分の賃金を差し引くものです。
この場合、遅刻や早退、欠勤した時間に対してのみ賃金を控除し、それ以上のペナルティを課すことはできません。
たとえば、遅刻3回で欠勤1日分の賃金を控除したり、罰金を課すことは違法です。

・減給の制裁
従業員が度重なる遅刻などにより職場の秩序を乱す場合、就業規則に基づき「減給の制裁」を行うことができます。
減給の制裁を行うためには、その内容や程度をあらかじめ就業規則に定めておく必要があります。
制裁としての減給は厳格な制限があり、1回の減給額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、1回の賃金支払期においては賃金の総額の10分の1を超えてはなりません。

2: 賃金控除の計算方法

賃金控除の具体的な計算方法は労働基準法で明確に定められていないため、企業は就業規則に従って計算方法を定める必要があります。
うるう年の場合、365日を366日として計算します。

3: 諸手当の取り扱いと端数処理

・諸手当
「家族手当」「通勤手当」「資格手当」「住宅手当」「役職手当」などの諸手当がある場合、どの諸手当を賃金控除の対象とするのかを就業規則で明確に定めておく必要があります。

・端数処理
賃金控除の計算で小数点以下の部分が発生した場合、端数の処理は通常切り捨てます。

以上の点を踏まえ、遅刻・早退・欠勤時の賃金控除を適切に行うことで、企業は労働法を遵守しつつ、公正な労働環境を維持できます。

同一労働同一賃金の主な改正内容

「同一労働同一賃金」の概念は、正規従業員と非正規従業員の間で不合理な待遇差をなくし、公平な労働環境を実現するために導入されました。
これに伴う主な改正内容は以下の3つです。

1: 不合理な差を設けることが禁止

まず、正規従業員と非正規従業員の間で基本給や賞与などの待遇について、不合理な差を設けることが禁止されます。
これを判断するための基準として、「均衡待遇」と「均等待遇」の考え方が導入されました。
「均衡待遇」は、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の3点を考慮して不合理な待遇差を禁止し、バランスの取れた待遇にすることを求めています。

具体的には、業務内容やそれに伴う責任の程度を判断基準とし、例えば、正規従業員が繁忙期や急な欠勤に対応するのに対し、非正規従業員にはその ような対応が求められない場合、責任の程度が異なると判断されます。
また、転勤や昇進などの人事異動の有無や範囲も考慮され、正規従業員が全国転勤があるのに対し、非正規従業員は自宅から通勤できる範囲のみでの異動に限られる場合、変更範囲が異なると判断されます。
その他の事情としては、職務の成果、能力、経験、合理的な労使慣行、労使交渉の経緯なども含まれます。

次に、「均等待遇」は、職務内容と職務内容・配置の変更範囲の2点がまったく同じ場合、差別的取り扱いを禁止し、すべての待遇について同じ取り扱いにすることを求めています。

2: 正規従業員との待遇差の内容や理由について説明を求めることができる

パートタイマー、有期雇用、派遣などの非正規雇用従業員は「正規従業員との待遇差の内容や理由」について説明を求めることができるようになります。
会社は、非正規雇用従業員からの求めに応じて、待遇差の理由を丁寧に説明する義務を負います。

まず、説明を受ける非正規従業員の比較対象となる正規従業員が誰になるのかを確認し、比較対象となる正規従業員との間で待遇に関する基準に違いがあるかどうか、またその理由について説明します。
例えば、職務内容、配置の変更範囲、その他の事情に基づいて差が生じている場合、その違いを具体的に説明します。
非正規従業員が理解しやすいように資料(就業規則、給与規程、賃金表など)を活用しながら口頭で説明するか、説明事項を記載した資料を交付する方法でも差し支えありません。

 

3: 有期雇用の従業員を雇い入れたときには、本人に雇用管理上の措置の内容や待遇について説明することが義務に

有期雇用の従業員を雇い入れたときには、本人に雇用管理上の措置の内容や待遇について説明することが義務付けられました。
この説明義務を果たすことで、非正規従業員が自身の待遇について正しく理解できるようにすることが目的です。

以上の改正内容を理解し、人事制度の整備を進めることが企業にとって重要です。
均衡待遇と均等待遇の違いを把握し、適切に対応することで、公正な労働環境を実現し、不合理な待遇差をなくすことが求められています。

不合理な待遇差を解消するにあたっての留意点

不合理な待遇差を解消するためには、企業は慎重かつ適切に対応することが求められます。
労使間での十分な議論を経ずに一方的な対応策を講じると、トラブルに発展する可能性があるため、以下の3つの留意点を押さえることが重要です。

1. 正規従業員の待遇を引き下げることは好ましくない

正規従業員と非正規従業員の待遇バランスを取るために、正規従業員の待遇を引き下げることは望ましくありません。
正規従業員にとって一律に待遇を下げることは不利益変更となり、労働者の士気や企業の信頼を損なう可能性があります。
また、一律に非正規従業員の待遇を引き上げることも、企業の人件費増大など経営に大きな影響を与える可能性があるため、慎重に対応する必要があります。

これらの問題を解決するためには、労使間で十分な話し合いを行い、合意を得ることが重要です。

2. すべての雇用管理区分との不合理な待遇差の解消が求められる

不合理な待遇差の解消は、すべての雇用管理区分において求められます。

企業には複数の雇用管理区分(総合職、一般職、地域限定正社員など)が存在する場合がありますが、いずれの区分に属する正規従業員との間でも、不合理な待遇差を解消する必要があります。
これは、特定の区分に限らず、全ての従業員が公平に扱われることを保証するためです。

3. 職務内容を分けてもバランスの取れた待遇差が求められる

正規従業員と非正規従業員との間で職務内容を分離した場合でも、不合理な待遇差の解消が求められます。
職務内容が異なる場合、その違いに応じてバランスの取れた待遇を提供することが重要です。
例えば、業務内容や責任の程度が異なる場合、その違いに見合った待遇差を設けることで、公平性を保つことが求められます。
これは、職務内容の違いによる合理的な待遇差であることを明確にするためです。

同一労働同一賃金のガイドライン

「同一労働同一賃金」のガイドラインは、正規従業員と非正規従業員との間で不合理な待遇差を解消し、公平な労働環境を実現するために設けられています。
このガイドラインは、賃金のみならず、教育訓練や福利厚生など、全ての待遇について適用されます。

まず、基本給の取り扱いについては、労働者の能力や経験、業績や成果、勤続年数に応じた支給を行う必要があります。
能力や経験が同一であれば同一の基本給を支給し、違いがあればその違いに応じて支給します。
同様に、業績や成果、勤続年数に基づいても同様です。

次に、賞与については、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給されるものであり、同一の貢献には同一の賞与を、違いがあればその違いに応じて支給する必要があります。
賞与の支給基準には、正規従業員と非正規従業員の間で合理的な説明が求められます。

さらに、各種手当の取り扱いについてもガイドラインは明確化しています。
役職手当や職務内容に関連する手当、また職務内容と関連の低い手当についても、同一の基準での支給が求められます。

福利厚生や教育訓練に関しても、正規従業員と同等の利用や付与が必要です。
例えば、福利厚生施設の利用や転勤者用社宅の提供、教育訓練の実施などは、職務内容や役割に応じて均等に提供されるべきです。

最後に、賃金の決定基準やルールが異なる場合には、その違いを客観的かつ具体的に説明することが求められます。
抽象的な理由による待遇差は不合理とされ、職務内容や配置の変更範囲、その他の事情に基づいた差異が許容されます。

以上のように、同一労働同一賃金のガイドラインは、企業に公平な待遇を提供するための重要な指針となっています。
企業はこれらのガイドラインを遵守し、労働環境の公正性を確保するための措置を講じることが求められます。

まとめ

「同一労働同一賃金」の理念を実現するためには、企業が法令やガイドラインを正確に理解し、従業員との信頼関係を築きながら適切な対応を行うことが不可欠です。
本記事で紹介したポイントを押さえ、企業は公平で透明性のある職場環境を提供し、従業員のモチベーション向上と企業全体の生産性向上を目指しましょう。

 

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